夏のこどもおぢばがえりが4年ぶりに開催されました。会長になって初めてのこどもおぢばがえりということもあり、今回は全期間を通して詰所で帰参の受け入れをさせていただきました。また、教会本部のひのきしんとして私は「おやさとやかた講話」の講師のお役をつとめさせていただきました。
おやさとやかた講話の冒頭で私はいつも、
「この中で、初めておぢばに帰ってきたお友達はいますかー?」
と毎回決まって質問をします。
たいてい手を挙げるのはそんなに多くないのですが、そういう子がいると、お誘いした教会長さんや引率者の方の真実・ご苦労を勝手に想像し、みんなに喜んでもらいたいと一層お話しに力が入ります。
この期間、おぢばのいたる場所で、老若男女たくさんのひのきしんの方が「おかえりなさーい!」と笑顔でお迎えをし、それに答えるように「ただいまかえりましたー!」と全身でおぢばの夏を満喫する子どもたちの姿がありました。私はそれ見て、あらためてこの行事は本当に素晴らしい「にをいがけ」だなあと心から感じました。
お道では、天理教をまだ知らない方に信仰を伝えることを「にをいがけ」と呼びます。漢字にすると「匂い掛け」。「みかぐらうた」にはこの匂いを意味する単語が2回出てきます。七下り目に、
一ッ ひとことはなしハひのきしん
にほひばかりをかけておく
みかぐらうた 七下り目
と出てきます。
通釈では、『一言神の話をするのも、ひのきしんである。にをいだけでもかけておくように』とあります。ここではこれ以上の解説はしませんが、今回は「にをい」というキーワードを深掘りして皆さんの思案の一助となればと思います。
まず疑問として出てくるのが、なぜ親神様は布教や宣教という言葉ではなく、「にをいがけ」という表現をされたのでしょうか。
ご存知の通り、人間の身体には視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という5つの感覚があります。その中でも、匂いに関わる嗅覚には他にはない特徴があります。それは嗅覚だけが唯一脳の中で、嬉しい・楽しい・悲しい・辛いなどの感情や記憶に直接働きかける特徴があるというものです。
医学的にいうと匂いは、感情や本能に関わる「① 大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」に直接伝わります。
他の五感は、理性を司る「② 大脳新皮質(だいのうしんひしつ)」に伝わるのが先です。
「香りが記憶に残りやすい」という話を聞いたことがあると思います。①の大脳辺縁系には記憶に関連する「海馬」という器官があり、そのために匂いはリアルな感情を伴って記憶に残りやすいという性質があるというのです。
あらためて「にをいがけ」の意味について、天理教のホームページにはこう書かれています。
にをいがけは、単なる宣伝や勧誘ではありません。また、人にお話をするという形に限られているわけでもありません。
花の香りや良い匂いが周囲に広まって、人が自然に寄り集うように、日々常に教祖のひながたを慕い、ひのきしんの態度で歩ませていただく姿が、無言のうちにも周囲の人々の胸に言い知れぬ香りとなって映り、人の心を惹きつけるのです。
天理教ホームページより
「布教や宣教」というと、端的で分かりやすいですが、どこか味気なく、ハードルが高くて強い言葉のイメージを私は抱きます。
一方で、目に見えるカタチだけにとどまらない信仰者の雰囲気や心情という要素をも内包する「匂い・香り」に例えて、「にをいがけ」という表現くださったところに、親神様・教祖の言い知れぬ至妙さと深い親心を感じます。
そして、あえて断言しますが、にをいがけは戸別訪問や神名流しなどに限らないということです。あまり肩に力を入れ過ぎず、自然と溢れる気持ちを大切にすることも必要だと思います。
先月の巻頭言で書いた、「何をするか(Doing)」よりも「どう在るか(Being)」、そして、「伝える」から「伝わる」へという話にも繋がります。
私の拙い経験の中でも、にをいがけにおいて手法やコミュニケーション能力も重要な要素ですが、同様に、いやそれ以上に目に見えない大切なことがあるように感じます。というか、こちらが狙って「にをい」を掛けようとしても上手くいかないのです。
私がにをいがけをしてきて、おぢばに帰ってくださった方、今でも繋がってくださっている方との思い出を振り返ってみると、どれも偶発的で再現性が低いことがほとんどです。自分の力ではなく、そもそも相手に出会うことも、相手の心が動くきっかけも、御存命の教祖が先回りして手を引いてくださったのだと強く感じるのです。
そしてそこには何かしらの真心・真実を尽くした物種があるはずです。
そうやって思案を進めると、あらためて「にをいがけ」というの言葉や行為は本当に奥が深いです。
新しい人を教会にお連れすることで、教会に新たな風が吹きます。初めての方をおぢばにお連れすることで、お連れする側のおぢばがえりの喜びも2倍にも3倍にもなります。
現在、大教会の直属の信者さん、繁藤の地域の方々を対象に10月7、8日におぢばがえり団参を企画しています。
この教祖140年祭に向かう三年千日、大教会はもちろん、直属教会、ご部内の教会それぞれが連携して団参などの機会を企画し、お互いに刺激し合いながら、共におぢばがえりの機運を高めていくことができればと思います。
この旬に、初めての方も含め一人でも多くの方をおぢばにお連れさせていただき、御存命の教祖に「よう帰って来たなあ」とお喜びいただけるよう、精一杯「にをいがけ」に励ませていただきましょう!
立教186年8月1日
天理教繁藤大教会長
坂 本 輝 男